従来、消化管の腫瘍を内視鏡で治療する場合、病変の下に生理食塩水を注入して盛り上がらせてからループ状のワイヤーで縛り高周波で切除する方法が採られてきました。しかし、広範囲に拡がる腫瘍では分割して切除しなければならないため、病理学的に完全に取りきれているか判定し難くなり、実際、直径2cmを越える病変では取り残しが問題となっていました。
一方、ESDは内視鏡の先から高周波ナイフを出し直視下に腫瘍を残さないよう周囲の正常粘膜ごと切除する方法で、広範囲に拡がる病変でも一括切除することができ、正確な病理診断も可能です。切除に時間はかかりますが、一般的な外科手術と比べて患者様の負担は軽く、入院日数も約1週間で済みます。
食道、胃、大腸の粘膜に限局した良悪性腫瘍性病変が適応となりますが、以下、胃癌を例に説明します。
日本胃癌学会が作成した「胃癌治療ガイドライン」では、「リンパ節転移の可能性がほとんどなく、腫瘍が一括切除できる大きさと部位にあること」がESDの基本要件とされています。
具体的には、
という4条件を満たすものとされています。
さらに、その後の国立がんセンター中央病院、および癌研究会附属病院による早期胃癌の手術症例の検討では、
先ず、通常行われる検査と同様に内視鏡を挿入します。
① 病変の数ミリ外側を高周波ナイフで焼灼して目印をつけます。
② その目印の外側の粘膜下層にヒアルロン酸を注入して粘膜を盛り上げます。
③ 目印の外側を高周波ナイフで全周切開をします。
④ 粘膜下層へのヒアルロン酸注入を繰り返し、高周波ナイフで剥離していきます。
⑤ 剥離が終了したら、剥離面の出血点を止血鉗子等で止血します。
⑥ 切除標本を取り出し病理検査を行います。
上記のように高周波ナイフなどの処置具を狭い管腔の中で使用しますので、以下のような偶発症が生じる可能性があります。
出血:粘膜下層にはもともと毛細血管が豊富であり、比較的太い動脈が通っている場合もあります。
この粘膜下層を高周波ナイフで剝離していきますので出血は必発ですが、ほとんどの出血は高周波で凝固止血することが可能です。
しかし、内視鏡的処置で止血できない出血が生じた場合には、緊急手術となる可能性があります。
また、剝離面に残る出血しやすそうな部位はすべて凝固止血してESDを終了しますが、後日になってから出血する場合もあります(後出血)。
穿孔:胃の壁に穴が開いてしまうことです。
穿孔をおこすと胃の内容物が外に漏れて腹膜炎を起こしますので、できるだけ早く穴を塞がなければなりません。
基本的には、そのまま内視鏡を使ってクリップという金具で閉鎖することが可能ですが、大きな穴が開いてしまった場合には、緊急手術となる可能性もあります。
切除標本は、病理学的に詳細な検討がなされます。
その結果、癌が深さ500μmを越えて粘膜下層に拡がっている場合や、血管やリンパ管へ癌細胞が入り込んでいる場合には、リンパ節郭清を含めた外科的手術の追加が必要となります。