当センターでは、消化管の癌を早期発見、早期治療できるように、基本的に40歳以上の方には、上部内視鏡検査(食道、胃、十二指腸)を年1回、大腸内視鏡検査を2-3年に1回受けて頂くことをお勧めしています。
しかしながら、内視鏡検査を受けて頂く際に苦痛を感じるようでは定期検査を繰り返し行うことも困難となりますので、何らかの苦痛軽減策が必要となります。
そのため、欧米では以前より鎮痛剤・鎮静剤を使用して内視鏡検査を行ってきましたが、近年、日本においても、鎮痛剤・鎮静剤を少量使った“意識下鎮静法”が盛んに行われるようになってきました。
最近の日本消化器内視鏡学会による偶発症の全国調査報告(図1)でも、約2/3の施設では何らかの鎮痛剤・鎮静剤を使用して検査を行っております。
(図1) 鎮静薬の使用状況(第6回全国調査報告 2008年―2012年。複数使用あり。)
使用薬物 | 上部消化管 | (%) | 大腸 | (%) | 膵・胆道 | (%) |
---|---|---|---|---|---|---|
ミダゾラム | 259 | 47.6 | 223 | 41.0 | 310 | 57.0 |
ジアゼパム | 152 | 27.9 | 119 | 21.9 | 131 | 24.1 |
フルニトラゼパム | 70 | 12.9 | 54 | 9.9 | 73 | 13.4 |
ペンタゾシン | 59 | 10.8 | 73 | 13.4 | 185 | 34.0 |
塩酸ペチジン | 55 | 10.1 | 147 | 27.0 | 117 | 21.5 |
プロポフォール | 18 | 3.3 | 12 | 2.2 | 27 | 5.0 |
デクスメデトミジン塩酸塩 | 6 | 1.1 | 1 | 0.2 | 3 | 0.6 |
ヒドロキシジン | 0 | 0.0 | 2 | 0.4 | 17 | 3.1 |
フェンタニル | 0 | 0.0 | 1 | 0.2 | 2 | 0.4 |
その他 | 12 | 2.2 | 11 | 2.0 | 19 | 3.5 |
使用せず | 132 | 24.3 | 134 | 24.6 | 7 | 1.3 |
横スクロール
鎮静剤・鎮痛剤による代表的な偶発症は、呼吸抑制(呼吸回数の低下、呼吸停止)、循環抑制(血圧低下、不整脈)、覚醒遅延であり、前述の偶発症の全国調査報告では、178例(全施行例の0.0014%)報告されており、このうち3例の死亡例がありました(全施行例の0.00002%)(図2)。
(図2) 鎮静薬の使用状況(第5回全国調査報告(2003-2007)
偶発症数 | 死亡数 | |||
---|---|---|---|---|
咽頭麻酔 | 38 | 0 | ||
鼻腔麻酔 | 8 | 0 | ||
鎮痙薬 | 37 | 0 | ||
鎮静薬 | 167 | 全施行例の 0.0014% |
3 | 全施行例の 0.00002% |
鎮痛薬 | 11 | 0 | ||
腸管洗浄液 | 114 | 8 | ||
抗凝固薬・抗血小板薬 | 67 | 0 | ||
その他 | 24 | 0 | ||
計 | 466(全施行例の0.0037%) | 11(全施行例の0.00009%) |
横スクロール
当センターでは、ご希望により検査の直前に鎮痛剤(ペンタゾシンまたは塩酸ペチジン)と鎮静剤(ミダゾラム)を少量、静脈注射して、不安を取り除き楽に内視鏡検査を受けて頂けるようにしております。この方法は、ぼんやりしながらも必要な受け答えはできるという状態を目標にしているもので、意識を完全に失わせる麻酔ではありません(そのため意識下鎮静法と呼ばれます)。それでも、ほとんどの方が、いつ検査が始まったのかわからない間に終わっていたと言われます。
一度、意識下鎮静法を試して頂ければこんなに検査は楽なものだったのかと実感して頂けると思います。なお、当院では偶発症対策として、先ず、全例、事前に心電図検査をおこない鎮静剤使用の可否をチェックしています。また、検査直前には静脈注射用の細いチューブを腕に留置し(ここから鎮痛剤・鎮静剤、胃腸の動きを抑える鎮痙剤を入れます)、検査中には酸素飽和度と脈拍のモニターを施行しておりますので、もし検査中に偶発症が生じたとしても速やかに酸素投与や、鎮痛剤・鎮静剤を中和するお薬、救急薬剤の投与もできますのできわめて安全です。
また、検査終了後には検査ベッドのまま回復スペースに移動して、鎮痛剤・鎮静剤が切れるまで血圧などの全身状態をチェックしながら約1時間程度休んで頂いております。この回復スペースはカーテンで区切られ10台のベッドを並べることができますので、全例、意識下鎮静法で検査をすることも可能です。